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47話 「すごいけど、剣術じゃない」セリオス譲りのダメ出し

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-07 06:00:20

 その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。

「ここから入れそうだよ?」

 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。

 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。

「一緒に行く?」

 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。

「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」

 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。

「エリゼなら大丈夫じゃない?」

 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。

「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」

 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。

「だよねぇ〜」

「うん♪」

 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。

♢洞窟の探索

 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、レイニーの冒険心をくすぐる。

「ねぇ、こういうのって冒険者っぽいよね……」

 エリゼが、ワクワクとした声でつぶやいた。その瞳は、暗闇の中で輝いている。

「だね〜こういうのをエリゼは求めてた感じじゃないの?」

 レイニーは、冒険者ごっこをしたいのなら、こういうのが好きなんじゃないのかな、と問いかけた。

「うぅーん、ちょっと違うけど……こういうのも好きかも〜」

 エリゼはそう言いながらレイニーの腕にしがみついてくる。その小さな体は、僅かに震えている。

 足を進めるごとに、コウモリの羽音が頭上から聞こえ、影が壁に踊る。遠くからかすかに聞こえる風の音が、未知の深淵を感じさせる。その音は、まるで洞窟が生きているかのように響く。

「この辺は、滑りやすくなってるから気を付けてねっ」

 レイニーは、足元の状況を察知し、エリゼに注意を促した。

「うん、お兄ちゃんも気を付けて……」

 エリゼは、お互いに心配をしあい進んでいく。その声には、レイニーへの気遣いが込められている。

 床には湿った苔や滑りやすい岩が散らばり、一歩一歩慎重に進まなければならなかった。時折、ゴブリンの唸り声や小さな生き物の足音が聞こえてきた。その音は、洞窟の奥から響き、二人の緊張感を高める。

「今のって魔物の声だよね?」

 エリゼが、何者かの唸り声のような音に反応し、怯えた声で聞いてきた。その顔は、恐怖に引きつっている。

「山の魔物とは、強さが違うと思うよ……ここは、俺の番で良いかなぁ?」

 レイニーは、怯えたエリゼには戦闘は難しいだろうと判断した。

「うん、うん……お兄ちゃんの番だね。わたしじゃムリだと思う……」

 エリゼはちゃんと自分の実力を理解して、素直に交代を了承してくれた。その声には、レイニーへの信頼が滲んでいる。

♢強敵との遭遇?

 そんな話をしていると、洞窟の横穴から魔物が襲い掛かってきた。といっても低級と中級の間の魔獣といわれる猛獣の魔物だった。

 ネコほどの大きさで素早いが、敵意と殺気を放っていたのでバレバレで野球のボールを打つ感じで、襲い掛かってくる魔物に剣を振った。セリオスがいたら怒れると思う、「それは、剣術じゃないですよ! ただ剣を振り回しているだけですよ!」と。

 知ってる……これは、野球のバットのスイングだし。斬るというより魔物を剣で殴り飛ばす感じだった。剣が魔物の腹に当たり、洞窟の壁に飛ばされて動かなくなった。その一撃は、魔物を完全に沈黙させた。

「……お兄ちゃん、すごいけどさ……それ、剣術じゃないよ」

 まさかのエリゼからのダメ出しを受けた。しかも、エリゼの父親のセリオスの言ってきそうな事を想像してた、同じ事を言われるとは……。レイニーは、苦笑いを浮かべた。

「あ、うん。咄嗟だったし……」

「だよね、すごい早かったし……反応が出来たのがすごい!」

 エリゼはダメ出しをして、誉めてくるあたりもセリオスと似てる。その瞳は、レイニーへの尊敬を宿している。

 エリゼに褒められた方が嬉しいかも、可愛い子に誉められるのが嬉しいね。レイニーは、素直にそう感じた。

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